ヘンリー夫妻とメーガン妃の「宣言」が波紋を呼んでいる。
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エリザベス女王の孫にあたるヘンリー王子(35)とメーガン妃(38)が王室の高位メンバーとしての公務を減少させ、北米での滞在時間を増やすと宣言したのは先週半ば(現地時間1月8日)のことだった 。
これは事実上の「公務引退」宣言として受け止められ、本国イギリスはもちろんのこと、世界中で大きな話題となった。
日本では、上皇さまがご自身の退位について2016年からそのご意向を表明し、2019年5月の新天皇の即位まで、少なくとも3年をかけているが、ヘンリー王子夫妻の宣言は、あまりにも突然だった。
祖母のエリザベス女王(93)、父のチャールズ皇太子(71)、兄のウィリアム王子(37)に公務引退を告げる前に、ヘンリー王子夫妻はInstagram(フォロワー約1075万人)で“引退”を発表したのである。保守系メディアは「爆弾発言」として紹介した。
2019年11月には、女王の次男にあたるアンドリュー王子が、アメリカの富豪で拘留中に亡くなったジェフリー・エプスタイン被告との親交に絡んで公務から退くと発表したばかりだ。エプスタイン氏は未成年者に対する性的虐待などの罪で起訴されていた。
イギリス王室は今度も続いていけるのか。今、大きな危機に見舞われている。
長い歴史を持つイギリス王室
エリザベス女王が暮らすバッキンガム宮殿
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イギリスの王室のこれまでを振り返ってみよう。その歴史は11世紀にさかのぼる。1066年、フランスのノルマンディー公(のちのウィリアム1世)によってイングランド王国が征服されて以来、イギリスでは継続して王室制度が続いてきた。
例外はクロムウェル親子が「護国卿」として実権を握った共和制の時代(1649~1659年)のみだ。
その後、国王の権限を制限した「マグナ・カルタ(大憲章)」(1215年)、「権利の章典」(1689年)などを経て、「君臨すれども、統治せず」と言い表される現在の立憲君主制が確立するようになった。
現在のエリザベス女王(エリザベス2世)の在位期間は約68年。ビクトリア女王の在位期間(1837~1901年)を超えた長寿の君主だ。
女王は、ウィンザー朝(1917年~)の4代目君主でもある。ウィンザー家の元をたどると、18世紀にドイツからやってきたハノーバー朝になる。以降、イギリスはドイツ系の王族によって現在まで支配されてきた。
「王冠を賭けた恋」が反面教師に
左からエドワード8世、ジョージ6世、エリザベス女王。もしもエドワード8世が退位しなければ、ジョージ6世とエリザベス女王は違う運命を歩んだかもしれない。
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エリザベス女王が、父・ジョージ6世の急死によって元首となったのは25歳の時だった。彼女が「反面教師」としてきたのが、俗にいう「王冠を賭けた恋」で知られるエドワード8世の統治だ。
エドワード8世は父・ジョージ6世の兄。エリザベス女王の伯父にあたる。「ハンサム、気さく、スポーツ好き、格好いい」王子として、国民に絶大な人気を誇った。一方、弟のジョージ6世は、演説が苦手で、性格は地味。兄弟だが、性格は大きく違った。
エドワード8世は1936年1月に即位するが、その数年前から離婚歴のあるアメリカ人女性ベッシー・ウォリス・ウォーフィールドと熱愛関係になっていた。彼女はエドワード8世と知り合った当時は別の男性と結婚しており「シンプソン夫人」だった。
1936年10月、シンプソン夫人の離婚が成立し、エドワード8世は彼女と結婚する意志を固めた。しかし、夫人が離婚経験者であることから、保守系メディアやイギリス国教会などが反対した。
エドワード8世はBBCに出演し、国民に直接語り掛けることで支持を得たいと願ったが、当時のボールウィン首相はこの案に反対した。
ボールドウィン首相は「イギリスは立憲君主制の国だ。議会から理解が得られない」「海外の自治領でも反対の声が強い」として、結婚を諦めるか、王位を放棄するかを国王に迫った。
1936年12月、エドワード8世は国王の座を放棄し、シンプソン夫人との結婚を選択した。二人はその後の生涯をイギリスの外で暮らした。
当時、エリザベス女王は10歳。伯父・エドワード8世の王冠放棄を「一家の恥」と見た。16年後、自分が女王になったとき、エリザベスは「自分の一生を国民のためにささげる」と宣言している。
エリザベス女王の統治スタイルは、この宣言を身をもって体現する形をとる。「黙々と公務にいそしむ」のである。自分の私見は一切、外に出さない。メディア取材にも応じない。
1960年代末、王室一家がくつろぐ様子をドキュメンタリー化したBBCの番組「ロイヤル・ファミリー」が放送されたが、現在は一般公開を許していない。
「自分を出す」ダイアナ妃の登場
イギリス王室を大きく揺るがせたのが、チャールズ皇太子の妻・ダイアナ妃のカップルだ。
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しかし、この「プライベートな面を外に出さない」方針を、エリザベス女王以外がそのまま踏襲するのは困難だった。特に王室を大きく揺るがせたのが、チャールズ皇太子の妻・ダイアナ妃(1961~1997年)だった。
皇太子との婚約時代からメディアの過熱報道の嵐に巻き込まれたダイアナ妃。その美貌や温かみ、気さくさは、「自分らしさ」を一切消そうとするエリザベス女王とは正反対だった。
ダイアナ妃は夫・チャールズ皇太子の不倫をBBCのテレビ番組で暴露した。女王やほかの王室のメンバーにとって「寝耳に水」の大事件だった。チャールズ皇太子とダイアナ妃、その関係者たちが互いの主張をメディアに暴露しあう中、二人は泥沼の離婚劇に突入した。
1996年、ようやく離婚が成立したが、その翌年、ダイアナ妃はパリでパパラッチに追われる中、交通事故で命を落とした。
夫・チャールズ皇太子の不倫をBBCのテレビ番組で暴露、離婚とイギリス王室に激震を呼んだダイアナ妃は、離婚成立の翌年に帰らぬ人となった。パパラッチに悩まされ続けていた。
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事故当時、エリザベス女王は夏の避暑地であるバルモラル城に滞在。事故後も家族とともに城にこもっていた。すでにダイアナ妃は王室の人間ではなくなっていたからだ。
しかし、ダイアナ妃の死に衝撃を受けた国民の批判の矛先がエリザベス女王、ひいてはイギリス王室に向けられた。
エリザベス女王は夫のフィリップ殿下、息子のチャールズ皇太子、孫のウィリアム王子とヘンリー王子とともにバッキンガム宮殿に戻り、亡くなったダイアナ妃への追悼の意をテレビ中継を通して表明した。
国民からの支持がなければ、王室は続いていかない。エリザベス女王は、これを熟知している。テレビ画面を通じて国民に語り掛けることで、エリザベス女王は王室の危機を救ったともいえる。
ヘンリー王子とメーガン妃の「爆弾」
元女優で離婚歴があり、アフリカ系アメリカ人であるメーガン妃に対しては、ヘンリー王子との婚約時代から過熱報道が続いてきた。
さて、今回のヘンリー王子夫妻による公務の大幅縮小宣言も、エリザベス女王にすれば「寝耳に水」の展開だった。
王位継承順では第6位のヘンリー王子。国王になる可能性は、ほぼゼロと言えるだろう。そのためメーガン妃、長男アーチー君とともに、王室メンバーとしてどのような領域を担当するべきなのか、過去数カ月にわたって話し合いを続けてきたという。
元女優で離婚歴があり、アフリカ系アメリカ人であるメーガン妃に対しては、ヘンリー王子との婚約時代から過熱報道が続いてきた。それはかつてのダイアナ妃に向けられた報道を思わせるようなものだった。
保守系メディアやソーシャルメディアには、人種差別的とも言えるような表現や記事も多々あった。
2019年10月、ヘンリー王子夫妻は民放ITVの番組の中で、メディアの過熱取材によるプレッシャーが相当なレベルに達していたことを吐露した。ヘンリー王子の方は、兄・ウィリアム王子との確執を思わせるようなことも口にした。同じころ、ヘンリー王子夫妻が複数の大衆紙や新聞社を相手に、名誉棄損などで提訴していたことも発覚した。
「YouGov」の世論調査(2019年8月)では「メディアに不当に扱われている王室のメンバーは誰か」という質問があった。エリザベス女王(2%)、フィリップ殿下(5%)、チャールズ皇太子(4%)がいずれも低かったのに対し、突出していたのがメーガン妃(39%)だった。
また、同時期の「YouGov」の調査では、ヘンリー王子夫妻に関するメディア報道が「過度に批判的」と答えた人が44%に上った。「公正でバランスが取れている」とした人は23%、「わからない」は24%、「過度に好意的」と答えた人は9%だった。
王室内では、将来的にヘンリー王子夫妻がイギリス以外の国に拠点を移すことも選択肢の1つとして、話題に上っていたという。
しかし、1月8日に夫妻がInstagramでの「事実上の引退」を宣言した後にバッキンガム宮殿が発表した声明文によれば、こうした話し合いはまだ「初期の段階」だったという。
イギリス国民の怒り、王室の将来は?
ヘンリー王子とメーガン妃の決断。「衝撃」の理由は、エリザベス女王などに相談せず、まるで爆弾のように公表されたこと。これが国民に反感も呼んでいる。
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ヘンリー王子夫妻による公務の大幅減少宣言は、イギリス国内外で大きく評価が分かれた。アメリカやカナダではメーガン妃に対するバッシングへの同情、夫妻の決断への共感の意見が散見された。
イギリス国内では「人種差別的バッシングにあったのだから、こうなるのも理解できる」と同情的な声があったが、それと同時に「衝撃」と「怒り」の声も満ちていた。
「衝撃」の理由は、エリザベス女王などに相談せず、まるで爆弾のように決断が公表されたことが原因だ。
では、「怒り」はどこからきたのか。ヘンリー王子夫妻はInstagramで、公務の大幅縮小と海外での滞在長期化を宣言し、王室から「財政的に自立したい」と述べた。
一方で、夫妻のウェブサイトによると、改装に240万ポンド(約3億4000万円)の巨費がかかったウィンザー城内にあるフログモア・コテージを今後も自宅として使い続け、年間9000万円ほどかかるとされる警備費も税金で負担してもらうことを前提としている。
つまり「王室のメンバー」という地位を維持しながら、義務となる「公務」を減らすという「良いとこどり」に見えるような姿勢が「怒り」を買ったようだ。
ヘンリー王子夫妻の公務経費のうち、5%は「ソブリングラント(王室助成金)」でカバーされている。これは国庫に入るエリザベス女王の不動産収入のうち、女王にもたらされる資金の一部だ。残りの95%は父・チャールズ皇太子のコーンウォール公爵領の収入に頼っている。
この5%分をヘンリー王子夫妻は今後は受け取らないことを明記しているが、95%については何の表記もない。とすれば、少なくともしばらくは受け取り続けることになる。
つまりは「超富裕層が、『メディア報道に傷ついた』ので、義務を若干減らしたい。ついては海外に住みたい。でも、王室の称号はそのままにしたい」という要望である。多くの庶民にとって、これではなかなか支持を得られない。
保守系メディアはヘンリー王子、メーガン妃に対するバッシングを強めるばかりだ。公務減少を宣言し、メディア報道がさらに過熱する中、メーガン妃は9日、長男アーチー君が滞在するカナダへ向かってしまった。
今後、イギリス王室は続いていくのだろうか。
年齢層ごとの王室支持率
YouGov
2018年5月の「YouGov」による調査によれば、イギリス国民の約70%が王室制度を支持している。この比率はこの何年もあまり変わっていない。
しかし、年代別にみると差が見えてくる。55歳以上では「支持」が77%、「不支持」は8%。これが18〜24歳になると「支持」57%、「不支持」25%に変わる。イギリス王室としては、若い層の支持率が上がるように力を傾ける必要がある。
Instagramで直接、国民に思いを語ったヘンリー王子夫妻は、1936年にエドワード8世がBBCを通じて国民に直接訴えかけようとしたことを彷彿とさせる。——もちろん、エドワード8世はそう思っただけで、実際には実現できなかったけれども。
長年、イギリスのメディアを観察してきた筆者からすると、ヘンリー王子夫妻の過熱報道に対する苦情や辛さは十分に想像できるし、共感もする。一人の人間として、「受け入れられない」レベルに達したのだろう。
また。ヘンリー王子は何度も、メディアに追跡されて命を落とした母・ダイアナ妃のことをよく思い出し、メディア嫌いになったというのもうなずける。
しかし、「もう少し、ひっそりと行動できないものか」という思いもする。クリスマスから年始にかけて、夫妻は「公務からの休暇」を宣言し、しばらく国内から姿を消していた。
この時の「休暇宣言」も保守メディアから批判された。「何気なく、公務の数を減らせばいいのになぁ……」と、筆者は思ったものである。
今回の公務の大幅縮小宣言も、もう少し、ひっそりとできなかったのだろうか。エリザベス女王やチャールズ皇太子、ウィリアム王子夫妻の公務数を全て「数えて」いる国民は、ほとんどいないのではないかと筆者は思う。
イギリスでは王室を支持する人が70%近くいる。だからこそヘンリー王子夫妻の突然の行動が「許せない」と思ったのではないか。期待が高いと、がっかり感も多いのだろう。
ヘンリー王子夫妻の行動を「若い王室のメンバーだから」といって弁護するのは、必ずしも簡単ではない。兄のウィリアム王子とキャサリン妃が、エリザベス女王を思わせるように、黙々と公務に励んでいるからだ。
国民投票で将来を?
イギリス王室支持派も不支持派も、今後の展開から目が離せない。
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イギリスの最大野党・労働党は、いま党首選の最中だ。候補者の一人、クライヴ・ルイス下院議員は「王室の将来について、国民投票を行うべきではないか」と発言した。
実際に国民投票が行われる可能性は低い。だが、元首たる国王(女王)が亡くなれば、継承順位で上位の人が新たな元首となるイギリス王室の世襲制は、不公平な制度だと指摘する人もいる。民主主義社会とは相容れない考え方だからだ。
古い制度から「飛び出す」宣言をしたヘンリー王子夫妻。イギリスが共和制に移行するとは思えないが「王室の一員でありながら、自立する」ことが果たして可能なのかどうか。
1月13日、エリザベス女王が主導した家族会議の後、女王はヘンリー王子夫妻の選択を認めるという声明文を発表したが、細かい点はこれから決めていくようだ。どのような妥協策となるのか、 王室支持派も不支持派も、気になる話題であることは間違いない。
小林恭子(こばやし・ぎんこ):在英ジャーナリスト。英字紙「デイリー・ヨミウリ」(現Japan News)の記者を経て、2002年渡英。政治やメディアについて多数の媒体に寄稿。著書『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中公選書)。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。
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January 15, 2020 at 03:10AM
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「王冠をかけた恋」の悪夢再び? ヘンリー王子とメーガン妃の爆弾宣言にエリザベス女王は…… - Business Insider Japan
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