いよいよ本日、1月17日から公開となった劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」。その劇場公開を記念して、超異色の対談が実現! 「メイドインアビス」原作者・つくしあきひと先生とTV番組「クレイジージャーニー」への出演でも知られるフリージャーナリスト・丸山ゴンザレスさん。世界各国に実在する数々の危険地帯を取材してきた冒険のプロである丸山さんに、つくし先生はどんなお話を聞くのでしょうか?
――今回の対談はつくし先生のご希望もあって実現したとうかがっています。
つくし 人生でいちばん緊張しております……。
丸山 もしかして、番組とか見てくださっていたんですか?
つくし はい、もちろんです!
丸山 ありがとうございます。
つくし ひとつ気になるのは、番組が終わってから「いったいどの辺に行っていたんだろう?」ということで。
丸山 基本あちこち行っているんですよ。香港のデモ取材や、アジアのオカルト取材や宝探しとかっていう感じで、番組が終わった後は自分の趣味的な取材がメインになっています。あとはフィリピンに英語の勉強しに行ったり、台湾にある日式の古い建物を見に行ってきたりしました。もともと僕は出版業がメインですから、番組が終わってからは元の活動通りです。わりと地味なものが多いですよね。いつも派手なネタを追ってるんじゃなくて、気になったものであれば、何でもいいんです。
つくし 失礼ながらTVから丸山さんのことを知った口なので、「世の中にはこんな人間がいるんだ⁉」と驚きました(笑)。
――丸山さんは「メイドインアビス」をご存じでしたか?
丸山 今回の依頼があってから自腹で全巻買いまして、読みました。すごくおもしろかったです。むしろ自分で買ったからしっかり読んだということもあるかもですが、とにかく骨太な冒険。でも出発前部分もしっかり描いている。アビスに入る前の生活と、入った後と、そこの比率に手を抜いていないというか、入る前もちょっと時間かけているじゃないですか。
つくし うっかり、かけちゃうんですよ(笑)。
丸山 結局、冒険って準備が楽しいから。
つくし 丸山さんは準備をどうされているんですか?
丸山 準備は僕もわりと時間をかけます。できる限り、ですよ。たとえ3日しか準備の時間がなくても手は抜かない。できることは全部やるという。ただ、「アビス」の主人公たちと僕の違いは、僕は帰るところまで想定して準備するから、そこは全然違う。僕がこの作品を見て、すごくいいなと思ったのは、ナナチの言っていたセリフで「情報は力だ」という。冒険って、現場で出くわす人間たちとの交渉とか、話し合いのほうが重要だったりするんですよ。だから、そのセリフが出てきて「ああ、そうだよね」と思ったんです。僕も最後の隠し玉でもっているような話とか、現場で絶対あるんですよ。自分だけは助かろうと思っているから(笑)。
つくし 最終的にはそれが大事ですもんね。
丸山 下層に降りていけば降りていくほど人間っぽさはなくなっていくんだけど、やっていることはものすごく人間臭いことをやっているのがいいなと。未知の領域が下というのもいいですよね。
つくし 舞台が狭いほうが広さを感じられるなと思ったんですよ。予想外なものが出てきたときに、広さがグッと出るので。あと、狭いところだと、より小さくものを見ようとするので。足元とか、いろいろ。
丸山 いろんなクリーチャーというか、生き物が出てくるじゃないですか。あれって、何から発想を得ているんですか?
つくし 現実の生き物がだいたいです。現実の生き物って、信じられないものが結構いるじゃないですか。スケーリーフットっていう貝だけど鉄のうろこがいっぱい生えているやつとか、普通にしれっといるんですよね。なので、生き物はまずとんでもないやつを出してから「どうしてこんなやつが生きていられるんだろう?」と、現実の生き物を参考に掘り下げていくという感じです。
丸山 僕は主戦場が都市なので、あまり大自然とか行かず、生き物に出会うこともほとんどないんですけど、そんな僕でもいくつか変わった生き物を追いかけたことがあって、ひとつはニューヨークの白いワニ。あとは、北米のオレゴン州にサスカッチ(雪男)を探しに行ったことがありました。2015年ごろにGo Proを犬につけて山を走らせたら雪男が映ったという最新目撃情報があったから「これだ!」と思って、行ったんですよ。その取材を某雑誌に書いたら、全ボツ食らって。
つくし そんな!(笑)
丸山 まとまりのない内容になってましたから、編集部としては当然の判断ですよね。結局「北米最新大麻事情」という、ガラッと変わった記事になりました。ニューヨークのワニに関しては「地下に潜ったら、色素が抜けて、視覚も退化したワニがいる」みたいな都市伝説があったわけですよ。だけど、実際に潜ったら「これは無理だな」と思いました。
つくし ワニが生きていられる環境ではない?
丸山 じゃないですね。くさいし。「くさい」と言っても、うんこくさいんじゃないんですよ。ニューヨークとかの下水道ってケミカルくさくて。
つくし それはきついやつですね……。
丸山 みんながいろんなものを捨てるから、便のにおいを超えてケミカルなにおい。その中で生き残れるワニなんかいるわけないだろう!と思っていたら、生物がいたんですよ。
つくし いるんですね!
丸山 ゴキブリですね。ゴキブリはやっぱり強いです。
つくし ナマズとゴキブリは超強いと言いますからね(笑)。
丸山 あと、意外と地下に潜るのは大きい大人よりも子供のほうが向いているなと、「アビス」を見ながら思いました(笑)。僕は富士樹海とかもよく探索するんですけど、あそこは僕の体格で行くと踏み抜く率がすごい。以前、知り合いが「樹海探索したいんだけど……」というので、チームを組んで行ったことがあって。そうしたら、その方が連れてこられた中に女の子がひとりいて、その子がジーンズにスニーカーとかの、その辺に行くような格好で来ているわけですよ。カバンとかもちっちゃいし、こっちとしては「なめてんのか⁉」と思うわけじゃないですか。でも、最後まで元気だったの、その子だけでしたからね。
つくし えええー⁉
丸山 やっぱり、軽いから。僕らはガツガツ行って、ハアハア言って戻ってきたのに、その子は踏み抜かないでチョンチョンと歩いて行けるから、まあ、体力を奪われていないんですよ。おじさんたち体力ないね感が逆にすごかったです(笑)。体力がないわけじゃないんですよ、地形を破壊して歩いているから。
つくし 足を取られるんですよね。
丸山 何本も木が倒れましたしね。富士樹海の木って根っこが張ってないから、倒れることってよくあるんですよ。富士樹海は何度も行っているんですけど、いつもトラブルが不意に訪れる。「アビス」もそこがおもしろかった。突然クライマックスが始まるから。
つくし 実際、立ち行かなくなることとかありますか?
丸山 うーん……。あきらめたことはないので、最後まで。よく聞かれるのは「いちばんヤバかったのはどこですか?」とかなんですけど、全部乗り越えているから、僕の中では解決済みなんですよね。それでも客観的に見て「死ぬかもしれない」という状況に直面したことは何度もあって、ただ、僕の中では「まあ大丈夫だろう」とか「死んだら死んだだろう」とか思っているわけですよ。避けられないかもしれない死にぶつかったときに、意外と自分は動じないんだなって思いました。苦しむ死じゃなければ、まあしょうがないかなと。
つくし 想像が苦しみに及ぶと、きついですもんね。
丸山 そうなんですよ。だから、僕は死にたくないんじゃなくて、苦しみたくないんだなというのがわかった。死ぬだけだったら別にいいという。死ねば終わりだから。……で、過去の「死ぬかもしれない」という状況の代表例としてよく使うのは、アフリカのビクトリア湖に浮かぶミギンゴ島という、島全体スラムという場所に行った帰りの船で起きた出来事。船のエンジンが壊れて漂流したんですけど、ビクトリア湖というのは世界で3番目くらいに大きい湖だから、何百kmか先のほうで嵐が起きているのが見えるわけですよ。あの嵐がここに来るのが先か、岸に漂着するのが先か?となって、日が暮れていくし、あまり騒ぐと海賊が来るし……。いっしょに乗っていた現地人たちも必死だから、これは高い確率でアウトだなと。なので「溺死って苦しかったっけ?」とか考えたりして(笑)。
つくし それはどうやって助かったんですか?
丸山 漂着がギリ先でした。たぶん方向的に嵐が来るのが少し遅かったんです。船が着いてからは、今度は山賊というリスクがありましたけどね。海賊を乗り越えた後に、山賊をかわさないといけない。
つくし 賊が多いですね(笑)。
丸山 すでに日本とまともに連絡がつかなくなって丸一日以上たっていましたし、とにかく早く空港に行かないといけないというので夜中に車を飛ばすんですけど、山賊なんて嘘だろうと思っていたら、真夜中なのに2台くらいスピードをガンガン上げてあおってくる車がいるんですよ。「ああ、来た、来た」と思って、雇っていたドライバーが後ろを振りむくこともなくアクセルをガンガン踏む(笑)。漂流してから飛行機に乗るまで丸30時間くらいの出来事でしたけど、結構アドベンチャーでした。でも、実は船の上では「俺だけは死なないだろうな」と思っていたんです。というのも、中身を全部捨てると浮き輪になるというウォータープルーフバッグを僕は持っていて、それを誰にも言わなかった(笑)。ディレクターとも「もし船が転覆したら、どっちかでも生き残らないとダメじゃないですか。逆方向、それぞれ行きません?」という話をして。僕からの提案なんですけど。
つくし たしかに、こういう人なら生き残る(笑)。
――まさに「情報は力だ」ですね。
丸山 僕がもっている隠し玉の情報を、ディレクターやほかの船に乗っている人は知らないわけですよ。僕はバッグの中のものを探りながら「これ捨てて……」とシミュレーションしたりして(笑)。自分だけは生き残ろうとしているという。
つくし でも、全員死ぬよりマシじゃないですか。
丸山 僕だけは生き残ってやろうと思っていますから。取材クルーという名の同行者は毎回ひとりだけですけど、その人を犠牲にしてでも生き残ってやろうと。その代わり、日本に帰ってくると「いやー、大変でしたねえ!」とか言って友情を深めていますよ(笑)。でも、僕が「アビス」を読んでいて自分と同じだなと思ったのは、停滞は負けというか、絶対に進むじゃないですか。
つくし 怖いですもん、停滞のほうが。タイミングとかチャンスが来てしまったら行くしかないという感じで。あの番組でも結構ありましたよね。
丸山 確実な準備をしたいけど、僕の場合は不十分でも出発しちゃうこともあって、その中で完璧をめざすというやり方をするんですね。そもそも準備自体も現場で変えなきゃいけないんですよ。いくらやっても、現場がその通りになることって絶対ないから。
つくし 世界はそんなに想像通りじゃないですもんね。
丸山 想像通りだったら、別に行く必要もないですよね。最近よく思うのは、僕のやっていることを本に書いたりしたときに「まとまりが弱い」とか「まとまっていない」とか言われるんですけど、それでわかってきたのは今までの世代の人が書くノンフィクションのまとめ方には世界への期待とか希望があったのが、今の社会の中では希望とかなくて、まとめること自体がナンセンスなんだろうなと。とっ散らかっている世界だから、あるがままに現象を見て自分の雑感を述べるという本の書き方をすることを「まとまりがない」と感じるのだったら、その人は世界に期待をしすぎだなと僕は思っていて。世界は本当にまとまりがなくて、だから誰も救われないかもしれないし、人類の向かって行く先がハッピーエンドとは限らない。
つくし 世界を豊かに感じるかどうかは受け手の問題ですしね。
丸山 だからこそ、僕は漫画とか小説とか読むのが好きなんですけど、物語というのは人間の脳の中で許される最高の娯楽です。そして、想像力を育てる最適なツールだと思うんです。この先の未来がどうなるのか、想像力があれば、悲惨なことを回避しようという行動にもつながっていきますから。だから、物語というのは、価値あるものだと思っています。「アビス」も物語としてすごく楽しかったので、続きもぜひ読みます。
つくし ありがとうございます! 今日はめちゃくちゃいい話が聞けて、とても参考になりました。
【取材・文:仲上佳克】
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January 17, 2020 at 12:00PM
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