週4日勤務のデメリットを強いて挙げるならどんなことだろうか。あるエンジニアは、仕事関係の電話だけでなく、同僚との雑談も減ったと答えた。だがそれも悪いこととは思わず、「孤独を感じるとすれば、それは自分の人生に他の要素を取り入れる必要があるということ」と話す。
しかし、職場でのコミュニケーション機会が減ったことを惜しむ声があるのも確かだ。チームメンバーとの1on1の頻度と1回あたりの所要時間を減らしたあるマネジャーは、若手に対するフィードバックが減ったことを不安に思っているという。
また、ちょっとした交流の機会が減ったため、雑談がきっかけで思いついたアイデアからイノベーティブな機能へと発展する瞬間を逃してしまう、ということもあるかもしれない。
あまりに根を詰め、孤立し、“意図”をもって仕事をするようになると、10年先の企業の運命を決める予期せぬイノベーションを見逃すリスクがあるのではないのだろうか。
こうしたリスクは、経営者がリモートワークに関して懸念しているものと同種だ。ある意味、週4日勤務はリモートワークをより協調的に行ったものと言える。週5日制よりも生産性が高く、雑念も少ないが、そのぶん取引という意味合いが強くなる。
Boltは、現在のメリットが将来のデメリットを上回ることに賭けている。100年近い前例がある週5日制と、ほぼ前例のない週4日制という、慣れ親しんだものと未知のものの戦いなのだ。
私たちはまだ「週5勤務の世界」を生きている
週4日制は、Boltという一風変わったスタートアップ以外でも通用するのだろうか。
Bolt従業員への取材から、おおむね前向きな印象を受けた。コンピュータ科学者であり作家でもあるカル・ニューポートが長年主張してきたように、専門職の仕事は不必要な会議や終わりのないメールのやりとりによって肥大化している。仮に、2022年に労働環境をゼロから設計する機会があったとして、今のような体制を思いつく人はまずいないだろう。
問題は、それらの非効率を従業員自身がなくすことは難しいという点だ。Boltでは、労働時間の短縮をトップダウンで命じられたことで、皆が足かせになっている習慣やルールを見直し、より生産性の高い方法に置き換えた。こうした取り組みはおそらく、他の多くの企業でも可能だろう。
アイスランドは2015年から2019年にかけて、一部の公務員の労働時間を最短35時間まで短縮する試みを行った。すると意外な結果が出た。入国審査に要する時間にも、児童相談所の未解決件数にもほぼ変化がなかったのだ。レイキャビク市の経理担当者に至っては、週あたりに処理する請求書の件数が増えた。
とはいえ、このような大規模な見直しはかなりの労力を要する。Boltでは、経営トップから若手従業員まで、全社一丸となって取り組む必要があった。Boltの従業員は就職先にスタートアップを選ぶような人たちだから、実験や変化に慣れていたということもあっただろう。そして何より、Boltがもともとワークライフバランスを重視するカルチャーだったことも追い風となった。
他社の事例では、燃え尽き症候群対策に取り組んだものの、上司が乗り気でなかったり従業員が乗ってこなかったりして、うまくいかなかったという話をよく耳にする。
また、シフト制を敷いている組織が週4日勤務に移行するとなると、人件費を増やすことになる。アイスランドでは、公務員の短時間勤務によって政府の年間予算は3400万ドル(約43億円、1ドル=127円換算)増加したと見積もられている。国家予算規模で見ればわずかな割合だが、病院のように24時間体制でスタッフを必要とする施設では、人員増加は難航するかもしれない。特に、どこもかしこも人手不足の今ならなおさらだ。
だが週4日勤務の最大のネックは、世界はいまだに週5日制だということだ。
仮にあなたが素晴らしいCEOだったとして、従業員の燃え尽きに週休3日制が役立つのではないかと考えたとしよう。だが、顧客や取引先は金曜日も働いている。1週間のうち1日でも銀行員や弁護士、営業担当者と連絡がとれなければ、競合他社に取引先を奪われはしないだろうか。金曜日の欠員を補うために人を増やすことになれば、値上げせざるを得なくなるのではないだろうか。
企業が独自に短時間勤務を導入しようとすることの難しさはここにある。市場経済において短時間勤務を真に機能させるには、政府がすべての人に義務づけるしかない。
週休2日のきっかけは世界恐慌
そもそも週40時間労働制はどういう経緯で生まれたのだろうか。
1870年当時、アメリカ人は1週間に62時間という過酷な労働をしていた。労働組合は労働者が自分たちの時間を取り戻せるよう数十年にわたって交渉し続けた結果、平均週労働時間は1890年に60時間、1913年には58時間にまで短縮された。
雇用主はこれ以上の労働時間短縮を食い止めるためにあらゆる手を尽くした。こんなことをすれば倒産してしまうと訴え、労働者に自由な時間を与えれば怠惰や堕落を助長することになると主張した。1926年にフォードが週40時間制を発表し、先進的な企業が試行錯誤の末に新しい常識の種を蒔いたものの、多くの企業は抵抗した。
しかしその後、世界恐慌が起こる。労働時間短縮の大義名分は突如として、雇用を増やして経済を救うためのものへと変わった。1938年にはフランクリン・ルーズベルト大統領が公正労働基準法に署名し、週44時間以上働く従業員に残業代を支払うよう雇用主に義務づけた。1940年にはその基準が40時間へと引き下げられた。
その後、各業界で週当たりの労働時間が大幅に短縮された。余暇が多すぎると資本主義が崩壊するといった声もあったが、実際は逆の効果をもたらした。休みが増えれば、その分自分の時間が増える。週休2日制によって、娯楽のための全く新しい商品やサービスの需要が生まれ、それまで存在しなかった市場が創出されたのだ。
アイスランドでは、政府が短時間勤務の実験に成功したことで、全国的な動きへと弾みがついた。現在、同国の労働人口の86%が短時間勤務を実現しているか、あるいは短時間勤務を希望する権利を持っている。民間企業でも公的機関でも、従業員の労働時間は週36時間以内が一般的で、看護師などでも週32時間という人もいる。アイスランド看護師協会の会長は、「こうした雇用契約は、過去40年間で最も大きな進展だ」と述べている。
「大退職」は週休3日をもたらすか
アメリカでも同じようなことが起こりうるのだろうか。2021年12月、米議会進歩的議員連盟は、標準労働時間を32時間に引き下げる法案を支持した。その後の進展は見られないため、近いうちにこの法案が日の目を見ることはないだろう。
しかし、働き手たちは自らの意思を行動で示し続けている。2022年度第1四半期のBoltの求人応募は、前年同期比4倍となった。筆者が取材した従業員たちのもとには、友人からリファラル採用で応募できないかとの依頼が殺到しているという。
プログラム・マネジャーのマット・グリーンウォルド(26)は、近所の人がBoltの取り組みに触発されて、勤務先のテック企業に勤務時間を短縮してはどうかと問い合わせたという。グリーンウォルドは、この動きが広まることを期待している。
グリーンウォルドは、金曜日はサンフランシスコを散策して過ごしている。
Jason Henry for Insider
世界恐慌が起こったことで週休2日制に移行したように、今回の「大退職」は週休3日制に移行するきっかけになるかもしれない。雇用主が人材確保に躍起になればなるほど、短時間勤務の試みにも乗り気になるはずだ。
コロナ禍によって、アメリカ人はすでに仕事への向き合い方を見直し、自分の生活で何を優先させようかと模索している。
週休2日制が当たり前だった年長者にとっては、週休3日制はまるで夢物語のように聞こえる。しかし、筆者が取材した若手プロフェッショナルたちは、週休3日制に前向きどころか、実行に移す企業が出てきたことに焦りを感じているようにも見える。
コロナ禍の中、職場の常識が次々と崩れる様を見てきた人々は、「この常識も覆せるんじゃないか」と考えている。世界的な危機は、思いもよらないことを可能にするものなのだ。
前出のグリーンウォルドは言う。
「週40時間労働はベビーブーム世代にはうまくマッチしたモデルだったけれど、もう時代遅れだと思う。今の労働力はミレニアル世代とZ世代で構成されているわけだから、自分たちに合った働き方や経営スタイルを見つけないと。僕らにとっては、週4日勤務がしっくりくるんです」
(編集・常盤亜由子)
[原文:If you want a four-day workweek, here's the proof you need to convince your boss it's a smart move]
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