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高校卒と大学卒の学生。いま、どちらが採用市場で「引く手あまた」なのかご存じだろうか。
答えは高校卒の学生だ。かつ「工業高校の学生」は圧倒的な人気がある。
「求人倍率=一人の学生に何社が求人を出しているか」を指標に考える。厚生労働省発表の2024年3月卒業の中学、高校卒業生徒に関する求人倍率は3.5倍。対して調査は異なるがリクルートワークス研究所調べの大卒求人倍率は1.7倍(※1)だ。
一方で、また別の調査にはなるが工業高校卒業生(全学科)の求人倍率は、2022年統計では過去最高の17.2倍(※2)。
つまり、いま工業高校卒業生を採用するのは大卒の10倍難しいとも言える。
時間外労働に関する法的制限が強化される「2024年問題」もあり、全国の建設会社から「若手人材が採れない」「人手不足で売り上げが立たない」という声が上がっている。
今回の寄稿では、工業高校の実態から建設業の人手不足、特に若手人材の採用を考えたい。
※1…リクルートワークス研究所調査『大卒求人倍率調査(2024年卒)』
※2…全国工業高等学校校長協会調査『令和4年卒業者等に関わる状況調査』
高木健次: クラフトバンク総研所長 。認定事業再生士(CTP)。京都大学在学中に塗装業の家業の倒産を経験。その後、事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業の事業再生に従事した後、クラフトバンク株式会社の前身となる内装工事会社に入社し、2019年より現職。
求人社数は10年で3倍…工業高校の人気ぶり
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「若手人材が採れない」という企業の声は多いが、どのくらい採用が難しいか、最新の実態を「数字」で把握している企業は少ないだろう。
筆者は首都圏の2つの工業高校建設科の進路指導の先生に話を伺う機会があった。工業高校の求人・就職の現状について、先生たちの話をまとめると次のような実態だった。
- 求人社数は直近10年で3倍に増加、リーマンショック時の2008年と比較すると5倍
- 就職希望の学生1人に企業求人は10〜15社
- 1割以上の学生が東証プライム上場企業もしくはそのグループ企業に就職
- 「高校卒で大手に入社したら大学院卒の同僚と働くことになった」卒業生もいる
工業高校の学生が人気の背景としては、二級土木・建築施工管理技士補など実用性の高い資格を取得していることに加え、現場で必要な溶接やCADなどを授業で経験していることなどが大きい。
もちろんアルバイトも含めた社会人経験が少ないため、基礎的な研修は必要だが、実技スキルの高い工業高校卒業生は企業にとって「金の卵」なのだ。
学校としては卒業生(OB)が入社し、OBの離職が少ない会社を学生に勧めるのが一般的だという。OBが母校で会社紹介等をするため、先輩後輩の繋がりで入社していく。
超売り手市場において中小企業でも高校生を採用できている会社は「不景気でも続けて採用してくれた会社」であり、「景気が悪い時に掌を返した会社」が学生を採用するのは難しい。
減少する工業高校、年収の問題
撮影:今村拓馬
「就職に強い」にも関わらず、工業高校は減少を続けている。
1970年代に全国736校あった工業高校は2020年度526校まで減少(文部科学省・学校基本調査)。定員割れの学校もある。
工業高校が減っている背景には、企業側の給与制度が時代の変化に即していない面もある。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査「学歴別にみた初任給」を見ると高校卒と大学卒の初任給の差は2015年から、月額で4万円前後で推移しており、大卒のほうが高い状況が続いてきた。
2022年度の同統計で40代時の平均年収を見ても、高校卒と大学卒を比較すると大学卒の方が160万円ほど高い。
一方で、高校卒の初任給引き上げに動く企業もある。
住宅業界大手の積水ハウスのグループ会社は2023年4月に高卒新入社員の初任給を月収ベースで11%引き上げ、積極的に高卒人材(住宅技能工)を採用する方針を打ち出している。
最新の2024年度の統計(産労総合研究所)では高校卒、大学卒とも初任給が大きく上昇したが、上昇率では高校卒の初任給の方が若干大学卒を上回った。
工業高校の学生が大手企業に就職し、一部の企業が「需要と供給」に合わせて高校卒の初任給を上げ始めた兆候と言えるかもしれない。
ただし、初任給が上がっても、すぐに高校卒と大学卒の平均年収の差が解消されるわけではない。新卒だけでなく、既存社員についても給与・評価制度の見直しをする必要がある。
建設業は資格や技術、経験を持つ技術者の在籍が、行政上の許可や受注などで重要な業界だ。資格保有者の退職は最悪の場合、会社の倒産、廃業にもつながる。
高校卒の有資格技術者と大学卒の無資格者。どちらが会社にとって「辞められたら困るのか」を考えたい。
「若手人材」を採れない理由
では、工業高校学生の「奪い合い」が過熱するなか、中小建設会社は若手人材の採用のために何に取り組めばよいのか?
筆者の所属企業の取引先で会社にヒアリングすると、厳しい採用環境であっても、以下のような企業も確実に存在している。
- 文系大学生に絞って10年活動して安定して新卒が採用できるようになった
- 業績が伸びていて、年功序列も無いので、他社からの経験者転職が多い(毎月4名応募あり)
こうした企業はなぜ採用できるのか? ポイントになるのが「人材育成の充実」と「情報発信の見直し」だ。
普通科学生の採用育成を充実させよ
建設業の採用ルート。
筆者作成
上記は2019年度に新卒・中途で建設業の採用市場を図式化したものだ。
少子化にも関わらず建設業に新卒で入ってくる学生は年4万2000人と微増~横ばいで減っていない。
しかし工業高校の数は減っているので、その分、普通科卒業生が増えていると推測される。前述したように工業高校の学生は大手企業の採用が多いため、中小企業では普通科の学生や業界未経験者を採用・育成する企業が増えている。
筆者の所属企業の取引先の事例を紹介したい。
山形県新庄市の土木工事会社・新庄砕石工業所(新庄砕石)だ。新庄砕石は公共工事中心のいわゆる「地元の土木建築業」だが、山形大学、新潟大学などの大学卒の新人を毎年コンスタントに採用している。しかも工学部だけでなく、法学部などの「文系」の学生も入社している。
新庄砕石のホームページ
HPを編集部キャプチャ
この企業では、SNSを軸にした情報発信に加え、都内のベンチャー企業と連携し、3Dプリンターを活用した施工や書類業務のデジタル化(DX)など新しい取り組みにも積極的だ。
また、文系の学生でも施工管理業務に従事・資格取得ができるよう、独自に技能トレーニングが出来るトレーニングセンターを開設するなど、育成環境も整備している。建設系の学科ではない入社3年目の社員が、国交省の安全発表大会で最優秀賞を受賞するなどすでに実績も出ている。
面接時にDXなどの新しい取り組みや、人材育成についてきちんと若手人材に伝えることは、応募からの採用決定率を高める上で効果的だといえる。
きちんとした自社サイト、わずか3〜4%
建設業の職人は法令で有料人材紹介(職業安定法32条)が制限されている(営業や施工管理に関しては法的制限が無い)ため、人材を採用するには情報発信が不可欠だ。
工業高校の学生の採用に成功している中小企業を筆者が全国で調べてみたところ、ほぼ全社が自社Webサイトに力を入れていた。写真付きの施工実績、現場の様子を紹介する動画ページ、どんな人が働いているかの説明ページなど、業界未経験者にも分かりやすい工夫が凝らされている。
また、問い合わせに社長が「即レス」するなど対応も徹底されている。
他方、都内で筆者が調査をしたところ、施工実績、求人情報、SSL認証(情報セキュリティ認証の一種)といった「きちんとした自社サイト」を整備している企業はその地域の全建設会社(行政上の許可業者)の3〜4%しかなかった。
「人が採れない」と言いながら、実際は自社サイトさえ整備しておらず「知ってもらう努力」をしていない会社が多い。
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