求人への応募は3倍 心身の健康を起点に好循環を生む
2008年に鍋嶋氏が社長に就任した頃、大橋運輸は赤字経営が続き、人手不足に苦しんでいた。しかし現在は、健康経営に取り組み始めた頃と比較して求人への応募数が3倍以上に増加。これは健康経営も含むさまざまな取り組みの結果だ。
鍋嶋氏はこれまでに経営面でも社員の健康を重視するため、会社の在り方を見直し、数多くの改革をしてきた。
まず、大手の運送会社から安く引き受ける下請け仕事を極力減らす、長距離輸送からは撤退、近隣のメーカーなどとの直接取引きで付加価値の高い仕事に集中――といった改革を断行し、経営を正常化させた。
人材不足の解消のためには早期から女性の採用を強化した。週3日勤務で管理職になった女性社員もいる。外国人やLGBTQなどの採用にも積極的で、LGBTQ当事者や支援者が集うイベント「名古屋レインボープライド」には毎年協賛を続けている。
最近は、特に地域課題の解決に注力している。ビジネスとしては、生前整理・遺品整理、引越しなど個人向けの事業に進出。地域密着型のきめ細かいサービスで大手との差別化を図り、業績を伸ばしている。
そしてCSR活動の一環として太さんを中心に取り組むのが、「地域健康プロジェクト」だ。地域住民の健康寿命を伸ばすことを目標に、他の地域団体や専門家などとも連携し、誰でも気軽に集える「おはなし広場」、バランスボールや太極拳、ヨガなどの運動教室、各種セミナーなどを無料で開催している。
鍋嶋氏は「地域課題に挑戦する」という会社の姿勢が社員のモチベーションにも良い影響を与えていると指摘する。
「売り上げや利益がモチベーションになったのは過去の話で、これからは自分が成長すること、それによって誰かの役に立つことが、仕事への活力になるのではないでしょうか。地域の課題を解決しようと思えば新しいことを学ばなければいけません。月に3冊まで本を買える制度があるのですが、その利用状況を見ていると、学ぶ社員が増えているなあと感じます」(鍋嶋氏)
過去の成功法則をなぞる、与えられた仕事にまい進する、というやり方では生き延びていけない時代になった。そんな中にあって大橋運輸は、健康、プライベートの充実、そしてやりがいのある仕事が人の活力を引き出し、会社の成長につながるという好循環を見いだした。創業70年という老舗ながら時代の変化に適応している優れた事例だといえよう。
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