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罪名や「再犯しない決意」尋ねる履歴書…「塀の中」専門求人誌の正体 - withnews

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「塀の中」の収容年数に入れ墨の範囲、出所後に「関係を切りたい人」の有無……。パッと見ではドキッとしてしまう履歴書がとじられた求人誌があります。受刑者ら専用の求人誌の名前は『Chance(チャンス)!!』。どんな求人誌でしょうか。(朝日新聞記者・高橋健次郎)

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仕事の有無が再犯に影響

仕事がないと生活基盤を失うことから、大きく再犯に影響すると言われています。罪を繰り返さないためにも就業は欠かせません。一方で、罪を犯した人の就職活動は厳しいのが現実です。

国も、犯罪歴を知った上で出所者を雇い入れる「協力雇用主」の制度などで、罪を犯した人の就業を後押ししています。

『Chance!!』にとじられた4ページの履歴書には、「罪名」や「再犯しないための決意」「反社会的勢力との関係」など、市販のものではまず目にしない項目が並びます。

求人誌には、出所者を雇い入れる意思のある企業が有料で情報を掲載します。履歴書は、受刑者らがそうした企業に送るためのもので、特殊な項目になっているのです。

刑務所に届く求人誌

『Chance!!』の創刊は2018年。A4判で年4回発行しています。

最新は18号で、本文63ページのオールカラー。建設会社を中心に24社が求人を出しました。全編にひらがながふられています。

全国の少年院や刑務所などを対象に3千部以上を無料で配っています。刑務所内の掲示などをみて直接求人誌を請求してきた受刑者らも含まれていて、その数は900人に迫ります。

受刑者らは専用の履歴書を掲載企業などに送付。面接などを経て採用、不採用が決まる仕組みです。つまりは「塀の中」で内定が決まります。

『Chance!!』の創刊は2018年。A4判で年4回発行しています
『Chance!!』の創刊は2018年。A4判で年4回発行しています

〝非行〟の過去

発行は、「ヒューマン・コメディ」という会社です。

代表の三宅晶子さん(51)が2015年に立ち上げました。

三宅さんには〝非行〟の過去があります。

中学生の頃には、酒やたばこも覚えていました。高校入学後には両親と衝突し、家出。学校に行かなくなり、素行を理由に入学後5カ月で退学処分になったそうです。「このままじゃ、ダメだ」と、高校に入り直し、大学へ。勤め人も経験しています。

自身が立ち直ったこと、そこには周囲のあたたかな支えという基盤があったこと。そんなことが、出所者支援の原体験になっていると話します。

三宅晶子さんは、自身が立ち直ったこと、そこには周囲のあたたかな支えという基盤があったこと。そんなことが、出所者支援の原体験になっていると話します
三宅晶子さんは、自身が立ち直ったこと、そこには周囲のあたたかな支えという基盤があったこと。そんなことが、出所者支援の原体験になっていると話します
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「お客様」にハードル

『Chance!!』を通じて就業したのは、創刊以来延べ150人(5月末時点)。半年以上の定着率は4割を超え、1年以上でも3割を維持しています。「『9割が飛ぶ』と言われてきた出所者雇用の業界では、高い数字です」と三宅さんは話します。

ポイントは、企業に課す掲載のハードルです。

身寄りのない出所者であれば、身元引受人になる。寮や社宅などの住居支援を行う。給料の前払いなどで、当座の生活費を支援する――などを求めています。

掲載にあたり、企業はお金を払っています。ですから、いわば「お客様」。それでも一定の条件を課すのは、労働環境が劣悪では定着しないからです。

「連日のサービス残業で、狭い部屋に何人も押し込められて暮らした」

三宅さんは、粗悪な環境を苦に辞めていく出所者の声を実際に聞いたことがあり、定着するための方策を考えたそうです。

コロナ禍でも、なるべく掲載を検討する企業の元へ足を運ぶそう。「雇ってやる」のような態度が見え隠れすれば、掲載を断ることもあるといいます。

「少年院に2度行った」

三宅さんの目を経て掲載された企業は、延べ100社に迫ります。「経営者が困難を経験してきた企業が多い」と話します。

「少年院に2度行った」「会社を倒産させ死のうとして電柱に衝突した」。求人誌には企業の代表者のメッセージも添えられています。それでも「過去は過去」「気づいた時が始まり」と受刑者らに語りかけます。

「過去は過去」「気づいた時が始まり」と受刑者らに語りかけます(『Chance!!』から)
「過去は過去」「気づいた時が始まり」と受刑者らに語りかけます(『Chance!!』から)

過去と向き合う作業

『Chance!!』の履歴書で細部にわたって記入を求めるのは、企業に課すハードルの裏返しでもあります。

求人誌にはこう書かれています。

「事業主さんの覚悟に応え、皆さんにも勇気と覚悟をもって過去をさらけ出して頂きたいのです」

非行歴や犯行歴などを書くにあたり、「事件の背景」や「再犯しないための決意や具体策」「被害者との関わり」なども書いてもらうようにしています。

過去と向き合うための作業で、1カ月かかる人もいるそうです。

生き直しを支える

三宅さんは「目の前の相手が再犯しない」とは、1ミリも思わないと言います。

けれども、変わろうと思えば変われるし、変わろうとする人を応援できる社会であってほしいと話します。

はからずも法を犯してしまうことは、誰しもありえるとし、「私だって、速度違反したりするし、巻き込まれてけんかをしたりする可能性はあります」。自分のためにも生き直しを支えられる社会に――。そんな視点も持ち続けたいと思っているそうです。

関東地方に偏りのある掲載企業を「全県1社以上」に広げたい。一部の刑務所で提供している、受刑者らの物事の見方や捉え方から見つめ直してもらうプログラムを、ほかの刑務所でも実施したい。三宅さんの思いは尽きません。

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ご意見お寄せください

犯罪の被害はそれぞれ深刻です。失われるものは取り戻しがたく、被害を受けた人が負わされる苦しみに時効はありません。

一方で、罪を犯した人の背景に目を向けると、精神疾患や障害、被害経験などの事情が浮かび上がるときもあります。その背景は〝免罪符〟にはなりません。同時に、そうした背景が犯罪に直結するわけでもありません。

それでも、人間へのまなざしは、生き直しができる社会の土台づくりになるのだと思います。結果として、犯罪からの離脱も促すと考えます。

罪と人間を考えます。

メール(dkh@asahi.com)で感想や体験談をお待ちしております。どうぞお寄せください。

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