リクルートHR統括編集長の藤井薫さん
業務経験やスキルが重視される経験者採用で、業界や職種が未経験でも応募できる求人が増えています。第二新卒など若手向けでは以前からありましたが、最近はミドルやシニア層であっても採用されるケースが見られます。なぜ未経験採用が増えているのか、どのようなスキルが重視されているのか? リクルートHR統括編集長の藤井薫さんに聞きました。
人材不足を背景に職種・業界未経験の求人増加
――転職市場で業界や職種の経験を問わない求人が増えているそうですね。
転職支援サービス「リクルートエージェント」の求人募集の仕事内容に「未経験」という言葉が含まれる案件を未経験求人と定義し、2018年度以降の求人数の変化を調べました。18年度の求人数を1とすると、19年度から21年度は1.1〜1.6倍で推移していましたが、22年度は3.2倍に急増しました。業界別で見ると22年度はIT・通信・インターネット業界が3.0倍、建設・不動産業界は2.6倍になり、職種別では営業職が6.6倍、エンジニア職は5.0倍、接客・販売・店長・コールセンター職は4.3倍になりました。
――未経験求人が増えた理由は何ですか。
企業は新型コロナウイルス禍の収束に伴い人材採用を強化しましたが、多くの業界や企業で人手不足もあり、求める人材である業界や職種の経験者はなかなか採用できていません。そのため、未経験者にも採用枠を広げて、募集せざるを得ない状況があります。
また、ビジネスモデルの変革に迫られていることも要因です。既存事業を続けるだけでは商品やサービスがコモディティー(汎用)化して、大きな売り上げが立ちにくくなっています。販売先を海外に求めたり、オンライン市場に参入したり、デジタル推進によって業務の効率化を図ったりして売り上げを伸ばしていかなければなりません。多くの企業では社内人材だけではノウハウが不十分なこともあり、異業種からも積極的に転職者を受け入れたいと考えています。
経験者採用はこれまで、同じ業界や職種の経験者を対象に、選考を通じて仕事の能力を推し量り採用していました。既存事業を拡大していくのであればそれでよかったのですが、多くの企業がビジネス転換期を迎えているなか、それだけでは業績を伸ばせる人材は採用できません。企業は「職種未経験OK、○○業界経験者歓迎」「業界未経験可、新たなスキルの習得者を歓迎」などの募集内容で、業界・職種経験の有無に関係なく採用するスタンスをとっています。知識やスキルを兼ね備えた即戦力の採用は難易度が高いため、業界知識や職種スキルなど足りない部分は、入社後の研修や教育を通じて育成していくリスキリング(学び直し)採用を取り入れる動きが起きています。
ポータブルスキルを使って異業種、異職種転職を実現
――リスキリング採用の具体例は?
例えば、自動運転の開発に注力する自動車メーカーでは、ソフトウエア開発や画像認識の知識を持ったITエンジニアを積極的に募集していますが、選考で自動車業界の知識を問うのではなく、あくまでITのスキルや知識を問います。自動車業界ならではの知識は、入社後の教育によって活躍支援をする、いわゆるリスキリング採用をしている印象を持っています。リクルートワークス研究所の調査では30年には341万人の労働力供給不足が起こるとされており、リスキリング採用の流れは今後ますます増えていくでしょう。
――未経験求人の採用では何が重視されるのでしょうか。
ポータブルスキルです。これは業界や職種、会社の壁を越えて生かせる個人が持っている強みのこと。厚生労働省の定義では、情報収集や分析によって現状や課題を把握できる力や計画を立てて実行できる力、上司や部下、社外の関係者と良好な関係を築ける力などが挙げられています。ポータブルスキルを生かせれば、異なる業界や職種への転職のハードルは高くなく、実際の転職事例も多くあります。
例えば、Aさん(20歳代)は旅行会社の企画職からIT企業のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)エンジニアに転職しました。前職では旅行商品の企画やインターネットでの販売経験があり、折衝力やコミュニケーション力が採用選考で評価されました。独学でプログラミングを勉強していた姿勢も評価につながりました。
Bさん(20歳代)はウエディングプランナーから通信会社に転職しました。前職で培った接客やスケジュール調整の能力を生かして、基地局設置の工程管理を担当しています。
新聞記者のCさん(30歳代)は人材紹介会社に転職して、セールス実績でトップになり表彰を受けたこともあります。仮説を立てて取材を進める仮説構想力や質問力、傾聴力は求職者と企業のマッチングに役立ちます。
Dさん(50代)は保険会社の営業マネジャーから食品工場の品質管理部長に転職しました。課題を設定して解決に向けた遂行力や部下に積極的に関与するマネジメント力が評価されました。食品工場にはパートスタッフが多く、うまくチームビルディングを進めた結果、歩留まりの改善につながりました。
環境適応力が低い人は転職期間が長期になる傾向
――自分のポータブルスキルはどのように探したらいいでしょうか。
様々な方法がありますが、ひとつは自分がこだわった仕事から考えてみることです。なぜこだわりを持って取り組んだのか、うまくいったポイントやつまずいたことは何だったのか、普段はやらないことも取り入れたりしたのかなどを深掘りすると見えてきます。自分ではなかなか気づけなければ、自分のことをよく知っている会社の同僚や先輩、人材紹介会社のキャリアアドバイザーなど他人から指摘してもらったり、厚生労働省がサイトで公開しているツールを使ってみたりしてもいいでしょう。
転職情報サイトのスカウトメールを活用することも手です。職務経歴書の作成ではスキルのタグを選んでいくだけで、簡単に作成できるような機能もあります。自分がかかわってきた業務についてサイトを使って整理しておくと、企業や人材紹介会社からスカウトメールが来ることもあります。なかには自分が思ってもいなかった業界や企業から連絡が来ることもあり、ポータブルスキルに気づけます。いずれの方法であっても手軽なものから始めてみてください。
――未経験求人の転職活動で苦戦するタイプはどのような人でしょうか。
経歴などにもよりますが、共通して言えるのは新しい環境に適応できる力の差。具体的には、これまで培ってきた経験やスキルを新たな環境に取捨選択して活用したり、不足する経験やスキルを柔軟に学び直したりする力です。例えば、コロナ禍を経てオンラインで会議をすることは一般的になりました。新たなデジタルツールが登場したとき、デジタルツールを積極的に取り入れて使いこなす人もいれば、「デジタルは分かりません」と拒否する人もいます。環境変化を恐れずに受け入れ、プライドや常識にとらわれない柔軟性を持った人のほうが、採用で有利になることはいうまでもないでしょう。
柔軟な人間関係の構築力も重要です。幅広い世代との交流が少なかった人は、転職活動が長期になる傾向があります。リモートワークが中心の会社では直接顔を合わせず、業務を進めることも多々あります。同じような世代とばかりと交流するではなく、違った世代や異なる国籍の人とも会話できるような人のほうが、企業から高く評価されます。
≪プロフィル≫
藤井薫 リクルートHR統括編集長。1988年リクルートに入社し、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事。2019年より現職。著書に「働く喜び 未来のかたち」。
(日経転職版編集部 町田真寿)
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